ホンネで語る歯周病治療

歯を抜くべきか?残すべきか?

「歯を抜くべきか?抜かずに残すべきか?」歯科医と患者様との間で常にトラブルの元となる問題です。重症の歯周病患者様を前に「なるべく抜かないで治療ができたら・・・寿命をまっとうしてくれたら・・・」 と考えることがあります。しかし、こと歯周病を治療する立場ではそうはいきません。

予防歯科の重要性がうたわれて久しいため、「歯を抜かずに残す」ことは最も重要なこととして考えられています。確かに痛みやその他の症状のことのみを考えれば、現実に「歯を抜かなければならない理由」はほとんど存在しません。

歯周病は症状の出にくい病気です。たとえ一時的に急性に歯ぐきが腫れて痛みを感じることがあっても、その時期を過ぎれば病状は必ず慢性化します。そうすれば、また痛みも何もなく過ごす事ができます。つまり、何もしなくても抜かない治療は可能です。しばらくほっておけばよいのです。

私は「歯を抜かずに残す」ことが患者様にとってどんな場合でも最良であるかのうような現在の風潮に若干の疑問を感じています。目先のトラブルを回避したためにさらに多くのトラブルを抱えてしまった患者様を見うけることもあります。重要なのは「歯をなるべく抜かずにお口全体を健康に保つこと」なのです。

ここではあえて、「(状態の悪い)歯を抜かなければならない理由」をあげてみたいと思います。

歯周病の全身への影響

重症の歯周病を放置すること(具体的には重症で治療しても改善が望めない歯を抜かずにおいておくこと)は全身の健康に悪影響を与えることが知られています。たとえ痛みや腫れがなくても歯周ポケットの中では活発な生体反応が起こっています。また多量の歯周病細菌が血管を通して生体に浸入しています。
「歯周ポケットの中で何がおこっているのか?」参照

かみ合わせの治療ができない

重症の歯周病にかかり動いている歯ではかみ合わせの力に対抗することができません。重症の歯周病を安定した状態にするためにはかみ合わせの力をコントロールする必要があります。重症で将来が不安な歯を残したままではかみ合わせのコントロールが十分に行えません。

歯槽骨を失ってしまう

歯周病を放置すれば歯の周囲の骨は確実に失われていきます。ひどい場合は歯を取り囲むように歯槽骨がなくなってしまいます。この段階で歯がなくなった場合、残された歯槽骨の量は非常に少なくなります。取り外しの義歯をつくるにもインプラントをいれるにしてもこのことは大変不利になってしまいます。

歯を失うことは人体の一部をなくしてしまうことです。患者様の考えとしては大変受け入れがたい事です。そのことを考えれば「歯を抜く」ことを宣言する歯科医の立場は大変心苦しいものです。医師と患者との価値観の違いは必ずありますが、その溝をどううめていくかが重要でしょう。