歯肉にやさしいかぶせ物

かぶせ物にとって最も大切なことは?
保険診療でかぶせ物といえば、銀色の金属のかぶせ物(クラウン)を思い浮かべる方が多いと思います。見えやすい部分に銀色の金属色は見た目に劣るということで、あえて自費の白いかぶせ物を希望される患者様もいらっしゃいます。見た目(審美性)は大変重要なことです。お口を開けた時に銀色の金属色が見えると、いかにも歯の治療を行っているとわかるので、思い切って笑えないと感じる方もたくさんおいでです。

では色だけで十分なのでしょうか?

こと歯周病の立場から言えば歯とかぶせ物の適合性、すなわちいかに人工物のふちの部分と歯がぴったり合っているか、またかぶせ物のかたちが周囲の歯や歯肉にマッチしているかが最も重要となります。なぜならこういったかぶせ物は単に見た目が良くて長持ちなだけでなく歯肉にやさしいからです。

歯肉にやさしいかぶせ物って?

白い歯とピンク色のきれいな歯肉。にっこり笑った口元に白い歯がみえるのは素敵ですが、歯肉が真っ赤に腫れていたり紫色に変色していたりすれば、せっかくの白い歯も台無しです。
歯肉が炎症を起こす原因はいくつかありますが、実は歯とかぶせ物の境目の適合の良し悪しも大きな要因のひとつです。かぶせ物と歯の境目が十分に適合していないと清掃することが困難で、結果的にその隙間に多数の細菌が生息するようになります。不良修復物(修復物とは歯の詰め物やかぶせ物のこと)という用語がありますが、歯周病の原因を歯の治療がつくってしまっているケースがあるのです。

歯肉にやさしいかぶせ物をどうやって作るのか?

歯とぴったりあったかぶせ物、歯肉と調和のとれたかぶせ物をつくるためには多くの解決すべき課題があります。
歯をきちんと削ること、これは歯科医の腕の見せ所です。歯の模型にぴったりあったかぶせ物をつくること、これは優秀な歯科技工士さんの仕事です。工業製品であればこの二人の仕事の精密さですべてが片付いてしまいます。
しかし、実際のお口の中での作業は工業製品のようにはいきません。歯肉は柔かく炎症を起こしやすく、場所によっても、またその時期によっても形や固さが変わります。炎症を起こした歯周ポケットは出血しやすいばかりでなく歯肉溝浸出液という液が常に湧き上がってきます。「歯型をとる」と一言でいいますが、実は大変な作業です。柔かく形の変わり易い歯肉のすぐそばを十分に乾燥させ精密に型どりするためには、ある程度健康な歯肉であることが必要不可欠です。いかに健康で精密な歯型をとることができる歯肉にさせるか、が最重要ポイントであり、そのためにはある程度の手間と時間が必要となります。コストも自然とかかってしまいます。

仮歯だって大事です。

最近の歯科治療では、仮のかぶせ物を長期間使う治療方法も一般的になりました。仮歯なのですが、プロビジョナルレストレーションという立派な名称がついています。仮歯とあなどることなかれ、ちゃんと歯型をとったうえで作るものです。仮歯をつけておいて歯肉の炎症が治まるのを待つだけでなく、噛みあわせや隣の歯との間の空隙についても実際のお口の中で修正していきます。究極の仮歯といえるものです。

白いかぶせ物が自費治療ではありません。歯肉にやさしく見た目にもよいかぶせ物が自費治療の本質ではないでしょうか。