3Mix-MP法は魔法の方法か?

この記事には続編があります。「シン 3Mix-MP法は魔法の方法か?」(2022年8月)

3Mix-MP(スリーミックス・エムピー)法というむし歯治療法をご存知ですか?

一時期マスコミでも盛んにとりあげられました。曰く「削らずに治す、痛くない治療!」。魔法のむし歯治療のように書かれていました。

「むし歯はすべて完全に取るべし」とはむし歯治療の原則のように思われますが、こと大きなむし歯に関してはそれが正しいこととは言えません。大きなむし歯をとってしまうと(この場合、むし歯を削る痛みがありますので麻酔を行います)歯髄(いわゆる歯の神経)まで達してしまい歯髄をとってしまうケースがあるからです。そのため大きなむし歯をどこまで取って、逆に言えばむし歯をどこまで残して歯髄を保護するかが治療での勘所となります。こういった大きなむし歯の治療法はインチョーが大学で学んだ20年以上前から数多くの治療法が存在しました。

3Mix-MP法は3種類の抗菌剤(細菌を殺す薬)とそれを混ぜ込むペーストを使う治療法です。簡単な手法は右の図のようになります。むし歯は上の部分だけとって深いむし歯を残します。深い部分を触らないので麻酔はいりません。そして3Mix-MPをむし歯の上においてセメントできっちりフタをしてしまいます。しばらくするとむし歯に含まれる細菌は殺菌されます。もともと歯の象牙質は細胞がある再生する組織ですので、硬い修復した象牙質に変わっていきますので歯髄を保存できるという訳です。

インチョーも開業当初から深いむし歯の治療にこの方法をとりいれてきました。

インチョーの評価は「いい方法です。お勧めですが、魔法の方法ではありません。時に失敗しているものもあります。」というものです。

最初の図のようなケースではほぼ100%成功しています。いままでのどの歯髄保護法より優れていると思います。3種類の抗菌剤を調整する手間は大変ですが、十分その価値があります。

ただし、最初の図のようなケースは実際に少ないのが現実です。このケースは奥歯の噛み合せの面に大きなむし歯ができているものですが、歯医者が嫌いな方であってもがさすがに噛み合せの面に穴があいた時は、さほどひどくならないうちに歯科医院に来られます。

多くの方の大きなむし歯は右の図のように歯と歯の間にできているケースです。こういった場合、歯と歯の間に食べ物がはさがるという症状はあるでしょうが、穴は触ってもわかりませんので、患者様自身の発見が遅れてしまいます。

インチョーはこういったケースでも3Mix-MP法をやってみたのですが、失敗例はすべてこのケースです。3Mix-MPがどんなに強力な薬であっても歯にくっつきませんので、セメントでしっかりフタをすることが必要です。歯と歯の間、特に歯ぐきに近い部分(右図の青丸の部分)のむし歯は完全に取りきれないことがあるのです。この部分の封鎖がきっちりできないので薬の効果が十分働かない、細菌が新たに浸入してしまう・・・というのが失敗の原因のようです。

結局、この手法の成功の鍵は、「きっちりフタをすること」にあります。考えれば当然のことですが、実際には困難な場合があります。

テレビ、雑誌などマスコミがこういった新しい治療方法を伝える場合、どうしてもセンセーショナルな表現になってしまいます。確かに中には従来の常識を全くひっくり返すような大発見が含まれていることがありますが、実際にその数はわずかです。やはり基本的な治療をきっちり行うことが最も重要です。