日本のむし歯はどうなっているのか

こどものむし歯はどんどん減少しています。1歳6か月児と3歳児を対象に区役所で行われる幼児歯科健診は、現在はコロナの影響で、健診する年齢が少し遅くなってしまいましたが、神戸市では1歳6か月、3歳3か月になったお子さんに対して毎月健診を行っています。30年前の1990年(平成2年)には神戸市の3歳児の40%にむし歯がありました。現在では10%に近づいています(2020年では10.7%)。むし歯を持つ子どもの割合は、年々着実に減少しています。ちなみに神戸市の平均は全国平均より良い状態が続いています。

どうして毎年こんなに減少しているのでしょうか?様々な原因が考えられますが、私は神戸市のお母さん、お父さんをはじめとする保護者の方々が子どものむし歯予防に関心を持って取り組んでいただいているから。そういった方の割合が年々増えているからだと思います。甘いおやつの食べ方に気をつける、歯ブラシの習慣をつける、フッ化物のはいった歯磨き粉やジェルを使う・・・そういった事を実践していただいている保護者の方が着実に増えているのです。

小学生・中学生のむし歯はどうでしょうか?学校で毎年行われる学校歯科健診の結果でも、むし歯は着実に減少しています。中学校1年生の歯科健診の結果から算出する12歳児DMFT(一人平均のむし歯経験歯数)は1990年から2020年までの30年間で、全国平均で4.30から0.68へと激減しました。神戸市では2020年で0.48です。神戸市では中学校1年生で永久歯(大人の歯)がむし歯になったことがある子は20人にひとりしかいません!

こういった結果をみると、子どものむし歯は絶滅できるのではないか?もっと言えば、日本人のむし歯はなくなるのではないか?と思われるかもしれません。

しかし、答えはNO!です

① 昔よりむし歯になる年齢が上がってきただけ

若年者でむし歯は激減しました。しかし、それ以上の年代ではむし歯は減っていないのです。日本国民の歯やお口の状態を調査している歯科疾患実態調査の近年のデータでは、むし歯が年々減少しているのは20~30歳くらいまでです(下図の青い矢印)。35歳以上では昔と一緒です(黄色の矢印)。高齢者ではむしろ以前より増えています(赤い矢印)。

歯科疾患実態調査を元にした近年の各年代のう蝕有病者率の変化

つまり、昔はこどものころからむし歯にかかって、小学生、中学生、高校生の間ではむし歯が氾濫していました。現在は高校を卒業した後、成人になる頃からむし歯になる人が増えているのです。むし歯になり始める年齢が上がっただけです。現在、むし歯にならないよう気をつけなくてはならないのは、高校を卒業した後、成人式を迎える頃の年代です。しかし歯科健診があるのは高校生までで、その後はほったらかしの状態です。

灘区歯科医師会ではこうした状況を踏まえて、灘区内にある大学に在籍する方を対象に大学生無料歯科健診を行っています。神戸大学をはじめとする大学の学生さんは春の3か月間、健診参加歯科医院へ「大学生無料歯科健診を受けたい」と予約をとってもらえれば、無料で歯科健診を受けることができます。この事業は2011年に灘区内にある3大学を対象にして始まりましたが、今では東灘区、中央区、須磨区、垂水区歯科医師会にも広がり、神戸市内にある合計18大学の学生さんであれば無料で歯科健診を受けることができます。

② むし歯は軽症化しています

もう一つの問題は、むし歯が軽症化している、穴がぽっこり開くようなむし歯になりにくくなっていることです。昔からむし歯になりやすい場所は、奥歯のかみ合わせの面の溝とされていました。溝は狭く深くへこんでいて歯ブラシの毛先もあたりにくくてむし歯になりやすい、穴が開きやすい場所です。ココはご自身でも見える場所ですので、「奥歯の溝が黒くなっている!」と歯科医院にやって来る方がたくさんいます。レントゲンを撮ってみると、歯はほとんどやられてなくて、むし歯はごくごく初期のままで止まっている状態がほとんどです。宮本歯科・矯正歯科では定期健診でICDASと呼ばれる初期むし歯を記録するシステムを採用していますが、多くのかみ合わせの初期むし歯はさほど進行していきません。

歯のかみ合わせの溝にできるむし歯よりやっかいなのは、歯と歯の間にできるむし歯です。歯と歯の間は直接見えないので初期のむし歯は目で見ただけではわかりません。私も学校歯科健診にライトと拡大鏡で武装?して行くのですが、こういったむし歯はなかなか発見できません。レントゲンでなければ診断できないので。学校歯科健診で、むし歯がない、と言われたこどもがレントゲンを撮って初めてむし歯が発見されることがよくあります。歯と歯の間のむし歯は診療室でさえ見落とすことがある本当に厄介なむし歯です。正確なレントゲンを適切な時期に撮らないと、歯と歯の間のむし歯を見逃してしまいます。

幼児歯科健診や学校歯科健診では、こういった隠れたむし歯を発見することができません。こういった健診はむし歯の子どもが氾濫していた時代に始まりました。その頃は歯科医師が口の中を見るだけで十分だったのでしょう。なにしろほとんどの子どもに穴が開いたむし歯があったからです。むし歯が軽症化した現代では見るだけの健診では対応できていません。是非とも、かかりつけ歯科医院をもって、歯科医院での歯科健診をお勧めします。